最強の抗うつ薬の併用は何なのか?エビデンスベースで精神科医が語ります。
May 14, 2026•Channel
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こんばんは。精神科医の芳賀高浩でございます。
今日は、「抗うつ薬を二剤併用するなら、最強の組み合わせは何なのか」というテーマで、エビデンス・ベースドにお話ししていきたいと思います。
昨日は、抗うつ薬を一剤で使う場合、どの薬がもっとも効果が強いのか、という話をしました。ただ、実際の臨床では、一剤で十分に良くならない方がいます。もちろん、まず大事なのは生活習慣を整えることです。睡眠、食事、運動、休養、カウンセリング、環境調整。そういった土台を整えることは、うつ病治療において非常に重要です。
ただ、それでも良くならない場合に、「薬で何とかならないのか」と考える方は当然いらっしゃると思います。一剤で足りないなら二剤使えばいいのではないか。これは自然な発想です。抗うつ薬には保険適用上の上限量がありますから、増量だけでは限界があります。そのとき、作用機序の違う薬を組み合わせることで、より良い効果が得られるのではないか、という考え方が出てきます。
これは、私自身のアレルギー治療にも似ています。私はかなりアレルギー体質で、喘息、アトピー、食物アレルギーなどがあり、皮膚も荒れやすく、咳も出やすいです。抗ヒスタミン薬だけでは不十分なことがあり、そこにロイコトリエン受容体拮抗薬を加えたり、喘息が強いときには吸入ステロイドを使ったりします。つまり、同じ方向からだけではなく、違う機序の薬を組み合わせることで、何とか症状を抑えているわけです。
うつ病も同じように、生活習慣や心理的支援を整えたうえで、それでも症状が残る場合には、薬剤の併用を考えることがあります。ただし、ここで大事なのは、何となくの感覚で併用しないことです。エビデンスが必要です。
エビデンスというのは、昔のお医者さんや研究者、そして臨床試験に参加してくださった患者さんたちが、時間と労力をかけて積み上げてくれたデータです。この薬とこの薬を組み合わせると本当に良いのか。単剤を続けるのと、別の薬に切り替えるのと、追加するのとでは、どれがよいのか。そういう、臨床現場では誰もが迷う問題について、先人たちが丁寧に検証してくれたわけです。
そこで、今日ぜひ覚えていただきたい試験があります。それが、SUN☺D試験、いわゆるサンディー試験です。これは日本で行われた大規模な臨床試験です。抗うつ薬は国によって使える薬が違います。アメリカやヨーロッパでは使えても日本では使えない薬もありますし、逆もあります。ですから、日本人にそのまま当てはめやすいデータとして、日本で行われた臨床試験は非常に重要です。
SUN☺D試験では、まずうつ病の患者さんにセルトラリン、商品名でいうとジェイゾロフトを3週間内服してもらいます。その時点で寛解した方、つまりかなり良くなって、うつ病で困らない状態に近づいた方は、その後の比較からは外されます。3週間で良くなった方は、それ以上薬を変更する必要がないからです。
そのうえで、3週間たっても寛解しなかった方を、さらに三つの群に分けました。一つ目は、そのままセルトラリンを続ける群。二つ目は、ミルタザピン、商品名でいうとリフレックスやレメロンに切り替える群。三つ目は、セルトラリンにミルタザピンを追加する群です。そして、さらに6週間治療を続けて、どれが良いのかを比較しました。
まず、最初の3週間でセルトラリンを飲んだ方のうち、18.1%が寛解しました。だいたい5人に1人弱は、セルトラリンだけでかなり良くなったわけです。では、残りの方にどうするのがよいのか。そこがこの試験の大事なところです。
そのままセルトラリンを継続した群では、反応率が43.4%でした。ここでいう「反応」というのは、完全に良くなったわけではないけれど、明らかに改善している状態です。たとえば、抑うつ気分や意欲低下はまだ残っているけれど、以前より動けるようになった。生活の一部が戻ってきた。医師から見ても、患者さん本人から見ても、改善していると判断できる。そういう状態です。
一方で、セルトラリンにミルタザピンを追加した群では、反応率が51.8%でした。つまり、半数を超える方が反応したということです。これは非常に大事な数字です。セルトラリンだけを続けると40%台前半の反応率だったものが、ミルタザピンを追加することで50%を超えた。日本人を対象にした試験で、セルトラリンにミルタザピンを加える併用療法の有用性が示されたわけです。
もちろん、抗うつ薬は特効薬ではありません。ここは繰り返し強調したいところです。うつ病は、薬を飲めばすぐに劇的に治るという病気ではありません。何もしなくても、時間経過のなかである程度改善する方もいます。抗うつ薬は、その自然な回復を後押しする薬です。私はよく、抗うつ薬は「うつ病を治すためのサプリメントのようなもの」と表現します。飲まないより飲んだほうがよい。ただし、魔法のようにすべてを解決してくれるわけではありません。
この点は、高血圧の薬とは少し違います。高血圧の薬は、血圧を下げるという一点においてはかなり明確に効きます。薬を増やしたり、作用機序の違う薬を組み合わせたりすることで、血圧を目標値まで下げることができます。しかし、抗うつ薬は、量を増やせば増やすほど、併用すれば併用するほど、必ずうつ病が治るという薬ではありません。効果には限界があります。
それでも、薬で助かる方はたくさんいます。だからこそ、どの組み合わせに根拠があるのかを知っておくことが重要です。
世界的なエビデンスを見ると、2022年にHensslerらがJAMA Psychiatryに発表したメタ解析があります。複数の研究をまとめて解析したもので、抗うつ薬の併用療法について検討しています。その中では、SSRIやSNRIに、ミルタザピン、ミアンセリン、トラゾドンなど、作用機序の異なる薬を組み合わせると、一定の有効性が示されることが報告されています。
また、2010年にBlierらがAmerican Journal of Psychiatryに発表した試験では、ベンラファキシン、商品名イフェクサーと、ミルタザピンの併用で高い反応率が報告されています。海外では、ベンラファキシンとミルタザピンの組み合わせは、かなり強い併用療法として知られています。
そう考えると、理屈の上では、SSRIやSNRIにミルタザピンを組み合わせる治療は、かなり有力な選択肢になります。では、日本で使える薬の中で「最強の組み合わせ」は何か。臨床的には、デュロキセチン、商品名サインバルタと、ミルタザピンを組み合わせたくなる方もいると思います。単剤で見ると、デュロキセチンは比較的効果の強い薬ですし、ミルタザピンも実臨床でよく使われる効果感のある薬です。
ただし、薬は単純に「強い薬」と「強い薬」を組み合わせれば最強になるわけではありません。実際に人に使って比較してみると、思ったほど相加効果が出ないこともあります。副作用だけが増えてしまうこともあります。ですから、「理屈では強そう」では不十分で、実際に臨床試験で確かめられているかどうかが大切になります。
その意味で、日本人においてしっかり証明されている組み合わせとしては、セルトラリン、つまりジェイゾロフトを開始し、十分に改善しなかった場合にミルタザピン、リフレックスまたはレメロンを追加する、という方法がもっとも根拠のある併用療法だと思います。
もちろん、ジェイゾロフトでなければ絶対にいけないというわけではありません。パロキセチン、エスシタロプラム、デュロキセチン、ベンラファキシンなどにミルタザピンを加えることも、臨床的にはあり得ます。ただ、「日本人で、試験としてきちんと示されている」という観点では、セルトラリンにミルタザピンを追加するという組み合わせが非常に重要です。
一方で、併用療法には注意も必要です。2018年にイギリスで行われたMIR試験では、SSRIやSNRIで十分に改善しなかった治療抵抗性うつ病の患者さんにミルタザピンを追加しても、臨床的に明確な利益ははっきりせず、副作用が増えたという結果もあります。つまり、すべての患者さんに機械的にミルタザピンを足せばよい、という話ではありません。
ミルタザピンには眠気、体重増加、食欲増加などの副作用があります。SSRIやSNRIにも、吐き気、性機能障害、眠気、不眠、焦燥感などが出ることがあります。抗うつ薬の併用は、効果が少し上乗せされる可能性がある一方で、副作用も確実に増えます。だからこそ、患者さんごとに、症状の残り方、副作用への耐性、生活背景、仕事や学校の状況を見ながら、丁寧に考えていく必要があります。
まとめると、抗うつ薬二剤併用で、現在もっとも根拠を持って語れる組み合わせは、日本人のデータではセルトラリンにミルタザピンを追加する方法です。セルトラリンを開始し、十分な効果が得られなければ、ミルタザピンを追加する。これが、現時点で非常に重要な選択肢になります。
ただし、抗うつ薬は特効薬ではありません。薬だけでうつ病をすべて解決しようとすると、どうしても限界があります。睡眠、食事、運動、休養、心理的支援、環境調整、そして必要に応じてTMSのような薬とは異なる治療法も含めて、総合的に考えていくことが大切です。
内服薬は、自立支援医療などを利用すれば、多くの方が現実的に受けやすい治療です。だからこそ、安易に使うのではなく、きちんと根拠を持って、患者さんに説明しながら使っていきたい。今日お話ししたSUN☺D試験は、その意味で、日本のうつ病治療において非常に大切な試験です。
セルトラリンで始めて、不十分ならミルタザピンを追加する。この流れは、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。
ここから先は少し雑談になります。
最近、アンパンマンの歌をあらためて聴く機会がありました。「何のために生まれて、何をして生きるのか」という歌詞がありますよね。今の時代は、「生きているだけで十分です」「生きているだけで100点です」と言われることも多いです。それは本当に大切な考え方です。ただ一方で、人はやはり、何のために生きているのか、何をして生きていくのかを考えてしまう存在でもあります。
うつ病の方も、そこに苦しむことがあります。薬で気分が少し楽になったとしても、「自分はどう生きていくのか」という問いは残ることがあります。だからこそ、薬物療法だけではなく、その人の人生、その人の意味、その人の物語を一緒に考えていくことが、精神科医の仕事なのだと思います。
今日は、抗うつ薬二剤併用のエビデンスについて、特に日本人で重要なSUN☺D試験を中心にお話ししました。これからも、皆さんに役立つ情報を、できるだけわかりやすく、エビデンスに基づいてお伝えしていきたいと思います。
精神科医の芳賀高浩でした。では、またお会いしましょう。